ABSおよびPA6-GF30におけるASM1101Nの評価結果について

製造プロセスにおける樹脂の接合工程では、被着体の表面状態が接着強度に決定的な影響を及ぼします。特にABS樹脂やガラス繊維強化ナイロン(PA6-GF30)は、その化学的安定性ゆえに難接着性を示すケースが少なくありません。本コラムでは、UV照射装置「ASM1101N」を用いた表面改質が、これら素材の接着性にどのような変化をもたらすのか、実測データに基づきご紹介します。

実験内容:UV照射表面改質による接着強度評価試験


1. 共通試験条件


使用装置 UV照射装置 ASM1101N
照射距離 10mm
使用接着剤 2液反応型ポリウレタン接着剤「UR-326A/B」
接着条件 接着面積 12.5×25mm / 接着厚さ 1mm
硬化条件 23℃ × 7日間(常温硬化)
測定方法 引張速度 10mm/min によるせん断接着強度試験

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2. 各材料の実験結果詳細


① ABS樹脂(GF未配合)

最も顕著な改質効果が確認された検体です。無加工品では接着面で剥離するのに対し、UV照射後は素材自体の強度を上回る接着力を示しました。

試験片条件 UV照射時間 せん断接着強度
[MPa]
破壊状態
無加工品(ブランク) なし 0.94 界面はく離
ASM1101N処理 30秒 3.06 被着体破壊
ASM1101N処理 60秒 3.20 被着体破壊
ASM1101N処理 180秒 3.14 被着体破壊

UV照射後の放置期間(インターバル)と接着強度の推移
表面処理条件 照射後の放置期間 せん断接着強度 [MPa] 破壊状態
未処理(ブランク) - 0.94 界面はく離
ASM1101N処理 当日(直後) 3.20 被着体破壊
ASM1101N処理 6日間放置 3.14 被着体破壊

UV照射から接着剤塗布まで6日間のインターバルを置いた場合でも、高い強度が維持されることが確認されています。


② PA6-GF30(30%ガラス繊維強化ポリアミド6)

極めて接着が困難な素材ですが、UV照射時間を延長することで実用的な接着強度へと改善が見られました。

試験片条件 UV照射時間 せん断接着強度
[MPa]
破壊状態
無加工品(ブランク) なし 0.12 未満 界面はく離(接着不可に近い)
ASM1101N処理 30秒 0.53 界面はく離
ASM1101N処理 60秒 1.14 界面はく離
ASM1101N処理 180秒 1.71 界面はく離(凝集破壊含む)

③ 溶融亜鉛メッキ鋼板

樹脂だけでなく、金属被着体に対してもUV照射による表面洗浄・改質効果が認められました。

試験片条件 UV照射時間 せん断接着強度
[MPa]
破壊状態
無加工品(ブランク) なし 2.05 界面はく離
ASM1101N処理 30秒 3.27 界面はく離
ASM1101N処理 60秒 3.42 界面はく離

3. 耐環境性(持続性)確認試験

表面処理(本項ではメチクロ処理およびUV処理の比較検証を含む)を施したABS樹脂を用い、接着後の長期信頼性を評価しました。

表面処理条件 試験環境 せん断接着強度 [MPa] 破壊状態
未処理(ブランク) 初期(常温) 0.94 界面はく離
メチクロ処理(溶剤) 初期(常温) 3.11 被着体破壊
ASM1101N処理(UV) 初期(常温) 3.20 被着体破壊
ASM1101N処理(UV) 温水浸漬(50℃×5日) 3.10 以上 被着体破壊維持
ASM1101N処理(UV) 耐圧油浸漬(5日) 3.10 以上 被着体破壊維持
試験環境(浸漬条件) 期間 せん断接着強度 [MPa] 破壊状態
初期強度(UV照射直後) - 3.06 〜 3.20 被着体破壊
温水浸漬(50℃) 5日間 3.0 以上 被着体破壊を維持
耐圧油浸漬(常温) 5日間 3.0 以上 被着体破壊を維持
  • 水浸漬試験(50℃ × 5日間): 浸漬後のせん断強度は 3.0 MPa以上 を維持し、破壊状態も「被着体破壊」を継続。

  • 耐圧油浸漬試験(常温 × 5日間): 浸漬後も強度の有意な低下は見られず、油分に晒される環境下でも改質効果による結合が安定していることが実証されました。


4. 実機(製品)レベル評価:破壊圧試験

試験片によるせん断試験に加え、実際の製品形状を模した試料での破壊圧測定も実施されました。

実機製品 破壊圧試験結果

未処理品(ブランク) 約250 〜 300 kPa (接着部より漏れ)
漏れ発生
ASM1101N処理 (30秒) 591 kPa
大幅向上
ASM1101N処理 (180秒) 751 kPa
最高強度

※被着体: 実機製品形状(ABS樹脂) 接着剤: UR-326A/Bを使用

  • 未処理(メチクロ無・UV無): 破壊圧 約250〜300 KPa(接着部から漏れが発生)

  • ASM1101N処理(30〜180秒): 破壊圧 591〜751 KPa へと大幅に向上。


表面エネルギーと接着強度の相関

接着不良の主な要因の一つに、被着体表面の不活性さが挙げられます。試験データによれば、未処理のABS樹脂に対するウレタン系接着剤(UR-326A/B)のせん断接着強度は約0.94 MPaに留まり、破壊状態も「界面はく離」を示します。これは、材料表面と接着剤が化学的に十分に結合していないことを示唆しています。

対して、ASM1101NによるUV照射を施した試験片では、強度が3.0 MPa以上に向上し、破壊状態が「被着体破壊」へと転換することが確認されました。

ABS樹脂 せん断接着強度試験(代表値)

未処理ABS 0.94 MPa(界面はく離)
ASM1101N処理(30秒) 3.06 MPa(被着体破壊)
ASM1101N処理(60秒) 3.20 MPa(被着体破壊)

光化学反応による表面改質のメカニズム

顕微鏡観察において、UV照射前後で外観上の有意な差は見られませんが、ナノレベルでは化学的な変化が生じています。ASM1101Nから照射される紫外線エネルギーは、以下のプロセスを経て表面を改質します。

  1. 活性酸素の生成: 紫外線が空気中の酸素分子を分解し、反応性の高い活性酸素を発生させます。

  2. 分子鎖の切断と官能基の付与: 素材表面の分子結合を一部切断し、そこに活性酸素が反応することで、親水性官能基(OH基やCOOH基など)が形成されます。

  3. 化学的結合の創出: 生成された官能基が接着剤成分のイソシアネート基と反応し、強固な化学結合(共有結合)を形成します。

環境耐性と長期信頼性

表面処理の効果が一時的なものではないか、という懸念に対し、耐環境試験による検証も実施しました。 ASM1101Nで処理した試験片に対し、50℃の温水や耐圧油への5日間浸漬を行った結果、接着強度に有意な低下は見られませんでした。これは、自動車部品や産業機械など、過酷な使用環境下で求められる長期的な信頼性を担保する上で重要なエビデンスとなります。

まとめ

ABS樹脂やPA6-GF30といった難接着材に対し、ASM1101NによるUV照射は、物理的な粗化を伴わずに接着性を向上させる有効な手段です。接着剤の変更や溶剤処理(メチクロ等)が困難なプロセスにおいて、表面改質というアプローチは品質安定化の有力な選択肢となり得ます。


用語説明

ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)

ABS樹脂は、耐衝撃性、剛性、加工性のバランスに優れた代表的なエンジニアリングプラスチックです。光沢のある美しい外観が得られることから、家電製品や自動車の内装部品、事務機器など幅広い分野で採用されています。 一方で、表面の化学的安定性が高く、そのままでは接着剤や塗料が馴染みにくいという特性を持っています。接合工程において高い信頼性を確保するためには、UV照射装置「ASM1101N」などを用いた表面改質を行い、表面エネルギーを向上させることが有効な手法として知られています。

PA6-GF30(30%ガラス繊維強化ポリアミド6)

PA6-GF30は、ポリアミド6(ナイロン6)にガラス繊維を30%配合することで、機械的強度、耐熱性、寸法安定性を大幅に向上させた強化プラスチックです。金属代替材料として自動車のエンジン周辺部品や産業機械の構造材などに多用される非常にタフな素材です。 しかし、その優れた耐薬品性ゆえに接着が極めて困難な「難接着材」の代表格でもあります。強固な接合を実現するためには、プラズマ処理やUV照射による物理的・化学的な表面改質が不可欠であり、適切な前処理を施すことで、過酷な環境下でも剥離しない安定した接着強度を得ることが可能となります。

ウレタン系接着剤「UR-326A/B」

UR-326A/Bは、優れた接着性と柔軟性を兼ね備えた2液反応型のポリウレタン接着剤です。プラスチック、金属、ゴムなど幅広い被着体に対して良好な密着性を示し、硬化後は耐衝撃性や耐振動性に優れた接着層を形成します。

今回の評価試験において、難接着材とされるABSやPA6-GF30の接合に採用されている通り、工業用フィルタや自動車部品などの高い信頼性が求められる分野で多くの実績を有しています。

イソシアネート基(-N=C=O)

ポリウレタンや塗料の主原料となる反応性の高い官能基。水酸基やアミン基と速やかに反応して、ウレタン結合や尿素結合を形成し、高分子(樹脂)になります。主にウレタンフォーム、塗料、接着剤、防水材などに使用されています。